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羽須美中学校

1996年
島根県邑智郡羽須美村(現・邑南町)

指名設計競技最優秀賞
受賞

第4回しまね景観賞 奨励賞
平成9年度文教施設協会賞

雑誌掲載

新建築1997年2月号

設計主旨
<村の風景としての中学校>

敷地のある羽須美村は、島根県と広島県の県境に位置する人口約2,500人の山村である。過疎化、生徒数の減少という深刻な問題に直面し、今まで村にふたつあった中学校を統合し、村で唯一の中学校として新しく羽須美中学校をスタートさせる決断がなされた。
それだけにこの中学校に対する村の人々の期待は大きく、「生徒たちの中学校」というよりも、「わが村の中学校」といった熱い思い入れが込められているのである。中学校の敷地に隣接して、旧阿須那中学校校舎(将来改装して村の文化的な施設として利用される予定である)、道路を挟んで町民体育館、小学校などがあり、ここは、村の教育文化施設が集中するエリアとなっている。私たちは羽須美中学校を含めたこの施設群が一体となり、村の人々に開かれた生涯学習の場として、また文化活動の拠点として受け入れられることを願った。それゆえに施設間の境界はできるだけ開放的に扱い、外間空間が連続性のある親密な空間となることを意図している。

<シーン(場面)をつくる>

運動場に面した半径100mの緩いカーブを描く外部廊下は「2階建ての回廊」、村のシンボルツリー(しだれ梅)を植えた中庭には「出会いの庭」、16角形の平面をもつ歴史観(廃校となった中学校の記録が保存展示される)へと導くエントランス広場には「歴史の杜」など、さまざまな名称を外部のスペースに与えることで、そこで展開される生徒や村人の活動が、それぞれの人の記憶にさまざまなシーンとして刻み込まれることを期待した。
「回廊」は、運動場を抱え込んで校舎と一体となり、体育祭などのイベント時には、観覧席としても使用されることを意図している。また、積雪があり天候が不順な冬場でも、ピロティや「回廊」は、生徒たちがのびのびと過ごせる空間となっている。
「庭」は、エントランスコートであると同時に、さまざまなイベントに使用されるスペースである。2階レベルでは、この「庭」を囲むよう生徒の動線に回遊性をもたせている。

<混成的(ハイブリッド)な構造と素材>

校舎は、当初から生徒たちが親しみを感じられるよう架構にも木を使用することを考えた。しかし積雪荷重400kg/㎡(長期)という厳しい条件のもとで、垂直荷重、水平荷重をいかに合理的に解決するかは、大きな課題であった。1階部分をRC造、2階部分をRCと木の混構造とし、テンション材を用いた木の梁が垂直荷重を受け、水平力をRC部分に流すことを考えた。
南棟は、桁行方向の水平力をトラス状に組んだ回廊の柱に流し、クラスルームの開口部が大きく取れるよう意図した。このトラス状の柱は、スクールカラーである青色に塗装し、羽須美中学校の特徴的なファサードの大きな要素となっている。
杉板とコンクリート、この地方独特の茶褐色の石州瓦と金属板、これらの素材が生み出す混成的なイメージと形態が、山々の緑と点在する民家の風景に馴染みながらも村の新しい生き生きとした風景をつくっていくことを願っている。
(龜谷清・山根秀明※※)

※この文章は、新建築1997年2月号に掲載されたものです。
※※元所員。現在はアイエムユウ建築設計事務所主宰。

建築データ

主要用途 中学校 
建築設計 ナック建築事務所
構造設計 石倉保富建築構造設計
設備設計 総合技研設計
造園設計 T&N環境デザイン研究所
施  工 鴻池組・日高工務店特別共同企業体
敷地面積 18,445.83㎡
建築面積 3,108.12㎡
延床面積 4,358.72㎡
階  数 地上2階
構  造 (校舎)RC造一部木造
     (体育館)RC造一部鉄骨造

 ▲南側外観。運動場に面して1、2階部分それぞれに回廊が設けられている。

 ▲「出会いの庭」より運動場を見通す。外壁はコンクリート打放しおよび杉板張り。

 ▲運動場に面した回廊を西側寄り見る。

▲東側全景。エントランス広場でもある「歴史の杜」。円形の建物の1階部分が歴史館になっている。

 ▲運動場に面した2階の外部廊下。積雪荷重などの影響を考慮してハイブリッドな構造が採用された。

 ▲南棟の2階普通教室内部。小屋組みにはテンション材が用いられている。

 ▲歴史観の上部に設けられた美術科室の内部。

 ▲歴史観内部。

 ▲アリーナ。

 ▲展望塔に上る階段空間。

 ▲南側夜景。

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