指名設計競技最優秀賞
雑誌掲載
新建築1995年8月号
日本建築学会作品選集1997
(共同応募:IMU建築設計事務所 山根秀明)
設計主旨
八束町は、宍道湖と日本海とを結ぶ中海の中央に浮かぶふたつの島(大根島、江島)からなる人口4,600人の町である。このふたつの島は、国の中海淡水化事業により島根半島と弓ヶ浜を結び陸続きとなった。大根島は島全体がひとつのなだらかな丘で、その中央のほぼ頂きにこの庁舎は建てられている。この庁舎は一昨年、山陰の設計事務所7社による指名コンペによって選ばれた私たちの案をもとにできている。コンペ時にはふたつのことを提案した。ひとつは、町の歴史を物語る庁舎をつくることである。すなわち、昔、中海という内海に浮かぶ島であったことを思い起こすような、大根島、江島というふたつの島をデザインモチーフとした大会議場のドーム屋根と議場、かつて町民にとって重要な足であった船をモチーフとした町民ホール、そして船の道標であった灯台をモチーフとしたシンボルタワー。庁舎を構成する建築的要素にそれぞれ歴史的物語性を付与することによって、ここを訪れる人々に様々なイメージを喚起させ、長く町民に愛されるようにすることである。ふたつには、町民が気軽に利用でき生活に密着したタウンホールとしての庁舎にすることである。すなわち、そこへいけば町民のための大広間があり、町民のための広場があり木陰がある庁舎、目的がなく訪れてもだれでも優しく迎えてくれるような庁舎をつくることである。
この庁舎は、約20m角の町民プラザを中心に配置された町民ホール、事務棟、議会棟の3棟からなる。町民ホールは、町民プラザを囲むように敷地南東の隅に置き、遠く大山を望む軸に合わせ、角度を振って配置した。事務棟および議会棟は、北西から吹き付ける冬の季節風から町民プラザを守るようにL字型に配置した。その一角にランドマークとしてのシンボルタワーを設けている。町民プラザは来庁者のアクセス空間としてだけでなく、様々なイベントの場ともなるよう考慮した。町民プラザに面してロビーや廊下を設け、2階分の高さをもつ回廊を介して外部のプラザと内部のロビーが視覚的に一体となるようになっている。町民プラザに立つとそこから庁舎全体を一度に諒解することができ、初めて訪れた人にもわかりやすい庁舎となっている。議場の壁には、東側の道路に面して大きな丸窓が穿たれている。この窓を通して、ともすると密室になりがちな議会の雰囲気を町民が感じることができるようにと考えた。
(龜谷清/ナック建築事務所)
※この文章は、新建築1995年8月号に掲載されたものです。
建築データ
主要用途 庁舎
建築設計 ナック建築事務所
構造設計 石倉保富建築構造設計
設備設計 総合技研設計
造園設計 T&N環境デザイン研究所
施 工 清水建設・松江土建特別共同企業体
敷地面積 8,166.60㎡
建築面積 2,157.90㎡
延床面積 3,302.89㎡
階 数 地上2階
構 造 RC造一部鉄骨造
※現在、この建物は松江市役所八束支所、八束公民館、中村元記念館として利用されています。