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隠岐ユネスコ世界ジオパーク中核・拠点施設(隠岐ジオゲートウェイ)

2020年
島根県隠岐郡隠岐の島町

公募型プロポーザル最優秀賞

受賞
・第28回しまね景観賞奨励賞
・令和3年度木材利用優良施設コンクール優秀賞50点

設計主旨
隠岐の島町の西郷港は天然の良港として知られ、かつては北前船の寄港地として栄えた港である。本土から船に乗ってこの港を訪れると、太古の火山活動によって形成された湾と山々を背景に、大城台地と八尾川、宇屋川に沿って街並みがひろがっている。
敷地は、この西郷港のフェリーターミナルに隣接する一角であり、島の玄関口として位置づけられるエリアにある。この場所に求められたのは、「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」のための施設である。4つの有人島と無数の無人島からなる隠岐諸島は、その自然の成り立ちや多様な生態系、そこで育まれてきた人の営み、歴史、文化が評価され、2013年に世界ジオパークの認定を受けている。2015年からは隠岐の島町としてジオパーク推進活動に取り組んでいる。その一環として「展示・案内・人材育成・物販」の役割を担う拠点施設を整備する方針が示された。この拠点施設は4つの島(4町村)それぞれに整備することとなっているが、とくに西郷港に整備される拠点施設は、各拠点施設を統括する中核施設として「調査研究・事務局」の役割も担う複合施設となることが求められた。
この要求を実現するため、公募型プロポーザルが行われた。わたしたちの提案は、このプロジェクトが、隠岐が育んできたつながりを知り、未来へつなげるためのものであることを踏まえ、「つながり」をコンセプトの中心に据えた。
 海とまちの間に立地することから、両者の「つながり」が重要と考えた。既存のフェリーターミナルは、まち側に対して閉鎖的な3階建ての壁のようであり、まちから海を感じにくくなっていると感じたからである。津波対策も踏まえ、1階をRC造の耐力壁付ラーメン構造とし、一部鉄骨柱を用いて、海側とまち側の両面に対してできるだけ壁を少なく、開口部を大きく取れるよう工夫した。まちから海に向かう道の延長線上に出入口を配置し、道の軸が海までつながるよう計画した。残念ながらこの道は港の直前で12mの道路により寸断されてしまっているが、視線はつながる。出入口は高速船の乗降ルートから自然に入っていける位置にも配置し、人々が海とまちの「つながり」を感じやすくなるよう計画した。また、この場所は島の交通の結節点であるため、バスやタクシー、フェリーターミナルからの動線に配慮して出入口を分散配置した。2階からは渡り廊下でフェリーターミナルと直結し、フェリーから下りた人が直接足を運べるように配慮した。
 2階部分は、隠岐の島町産の木材をふんだんに使用した木造とした。島の風土や産業との「つながり」が、この施設とジオパーク活動に対する愛着を生み、島のおおらかな風景に溶け込むことができると考えた。木造切妻のシンプルな屋根を架け、外壁仕上げもスギ板縦張りとした。壁には押縁を設け、屋根を来待色の石州瓦で葺いた。これらの材料は近場で入手できるものであり、かつ、島の人々の手でメンテナンスしたり補修したりできるよう在来工法を採用した。
 1階は明るく開放的な空間が広がり、さまざまな方向からやってくる人が出会い、交流することを意図して設計した。海やまちとの「つながり」を感じながら、観光やジオパークについての案内や情報発信、事務局の事務や研究、制作活動が行われる。運営管理者と利用者の距離が近く、観光客やビジネスマン、船を待つ人、ふらりと訪れる地元住民など、誰に対しても開かれて「つながり」が生まれやすいよう計画した。
 2階は展示機能である「隠岐自然館」となっている。1階と2階をつなげる吹き抜け空間は、「ジオパークエリア」と名付けられた展示のイントロダクション空間であり、エレベーターと階段のある垂直動線の空間でもある。階段を昇ると目の前に海が広がり、振り返ると受付と展示室入口がある。展示室は、収蔵品を守るため、また映像展示を妨げないよう外に対して閉じている。展示室に必要な大空間を確保するため、隠岐の島町産の120角の一般流通材でキングポストトラスを組み、梁間スパン15mを実現した。島の人々が扱いやすい工法として採用したが、結果的に金物も少なく、シンプルな架構の力強い空間となった。
この地域の将来との「つながり」として、夜はタイマー制御で施設をライトアップできるよう照明計画を行った。夜のまちでは飲食店などが営業しているが、人通りはまばらである。店舗が営業している間、まちを美しく照らせないかと考えた。
設計期間中は、関係者のヒアリングと地元住民参加のワークショップを重ねて案を練り上げていった。要望や意見は多岐にわたり、施設だけでなく、隠岐諸島や島全体、まちのあり方、港エリアの整備など様々なレベルでの意見があった。今回実現できたのはそのほんの一部である。

建築データ
主要用途 博物館
建築設計 ナック建築事務所
構造設計 西建築設計事務所
設備設計 ティビィエム
照明設計 LEM空間工房
WS協力 プロジェクトゆうあい
施  工 吉崎・門脇特別共同企業体
     株式会社中電工
     株式会社野村水道工業
敷地面積 9090.10㎡
建築面積 757.08㎡
延床面積 1406.60㎡
階  数 地上2階
構  造 RC造+木造、一部RC造+鉄骨造

 ▲東側正面。フェリーより西郷港を望む。中央左側に隠岐汽船のフェリーターミナル。右側に「隠岐ユネスコ世界ジオパーク中核拠点施設」がある。

 ▲北側より西郷港とまちを望む。フェリー乗客の乗降は2階レベルで行われるため、フェリーターミナル2階から渡廊下で直接、ジオパーク施設の2階にアクセスできるようにした。

 ▲西郷港から海側(東面)を見る。

 ▲汽船通りから まち側(西面)を見る。

 ▲明るく開放的な窓際の案内スペース。カウンターの向こうがオープンな事務室となっている。天井のルーバーは隠岐の島町産のスギを用いた。

 ▲風除室越しにまち側を見る。まちと海をつなぐ道を意識した。照明器具は隠岐諸島の一つ一つの島の形をしている。

 ▲「ジオパークエリア」の吹抜け空間。1階と2階の活動をつなげる。

 ▲階段を昇った先に海の風景が広がる。振り返ると「隠岐自然館」の受付と展示室入口が見える。

 ▲展示室。下弦材を集成材とした以外は地元産の一般流通材で組んだキングポストトラスによる15mスパンの大空間。フレキシブルな展示が可能となった。

 ▲台地から西郷港を見下ろす。風景の中に溶け込む建築を目指した。

 ▲夜景。建物の内外をライトアップし、港の景観をつくり、街のにぎわいを演出する。

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